スマホを見る時、雑誌をめくる時、街を歩く時、気づくと私たちの周りには文字があふれています。それらの文字の形、太さ、空間のバランスは偶然ではなく、緻密に計算され、芸術的センスで磨き上げられたデザインの結晶です。
そんな文字のデザイナー「書体設計士」という職業をご存じですか?
あまり馴染みの無い職業ですが、日本で特に有名なのが鳥海修さん。あなたが今日見た文字たち、実は彼の作品かもしれません。
どんな思いで文字をデザインしたのか、どんな作品を残したのか、日本の文字デザイン界でどれほど大切な存在なのか...この記事では、私たちの日常を彩る文字の魔術師、鳥海修さんの魅力に迫ります。
鳥海修のプロフィールと生い立ち
鳥海修(とりうみ おさむ)さんは、日本が誇る書体設計士の一人で、1955年3月13日に山形県遊佐町で生まれました。
鳥海山の雄大な自然に囲まれて育った彼は、子どもの頃から自動車に魅了されていました。高校では機械科に進み、当初はカーデザイナーを夢見ていた鳥海修さん。
しかし進路を変更し、多摩美術大学のグラフィックデザイン学科へと進学します。
大学生活の転機となったのは、毎日新聞社のフォント製作課見学でした。そこで「日本人にとって文字は水であり、米である」という言葉に深く心を動かされ、書体制作という一生の仕事に出会うことになります。
私たちが毎日何気なく見ている文字のデザインが、ライフワークになった瞬間ですね。
- 生年月日: 1955年3月13日
- 出身地: 山形県遊佐町
- 職業: 書体設計士
- 教育: 多摩美術大学卒業
- 主な作品: ヒラギノシリーズ、游書体ライブラリーなど
書体設計士としての経歴
大学卒業後の1979年、鳥海さんは株式会社写研に入社して、本格的な書体づくりの修行をスタート。
そこで培った技術と経験を活かして、1989年には仲間の鈴木勉さん、片田啓一さんと一緒に「字游工房」という会社を立ち上げました。
そして1998年から2019年までの長い間、代表取締役として会社を引っ張ってきたんです。
あなたのパソコンやスマホでもお馴染みの「ヒラギノ」シリーズや「游明朝」「游ゴシック」といった、今や日本中で使われている文字たちは、この字游工房で生まれました。
受賞歴と現在の活動
鳥海さんの仕事ぶりは業界でも高く評価されていて、2002年に佐藤敬之輔賞、2005年にグッドデザイン賞、2008年に東京TDCタイプデザイン賞と、名誉ある賞をいくつも受賞。
さらに2023年には、文化への貢献を称える第58回吉川英治文化賞まで手にしています。
今は京都精華大学の特任教授や武蔵野美術大学の非常勤講師として若い世代に教えるかたわら、自分の塾「松本文字塾」を開いて、未来の文字デザイナーたちを育てています。
鳥海修が作成した代表的な書体
ヒラギノフォントシリーズ
特にヒラギノ明朝体は、スティーブ・ジョブズに「クール!」と評価され、MacOSに標準で搭載されており、デフォルトの日本語フォントとして使用されています。
ヒラギノフォントがこれほど広く使われている理由には、どんな工夫が隠されているのか、5つのポイントにまとめてみました。
1. 見た目のバランスが絶妙
ヒラギノフォントの文字は、中心がとても自然な位置にあって、文字と文字の間の白い部分(白間隔)が均等になるよう細かく調整されています。これによって全体が美しいグレーのグラデーションのように見え、読みやすさと美しさを両方実現しているんです。
2. モダンなのに親しみやすい
ヒラギノフォントは、最新のトレンドを取り入れたクールな雰囲気を持ちながらも、どこか懐かしさや安心感を感じさせる伝統的な要素も残しています。特にヒラギノ明朝体とヒラギノ角ゴシック体は、この「新しいけど信頼できる」というバランスが絶妙なんです。
3. 世界中の言語に対応
日本語だけじゃなく、中国語(簡体字も繁体字も)、英語などの欧文まで、様々な言語をカバーしています。国際的な文書やウェブサイトでも、言語が変わっても同じフォントファミリーで統一感を出せるのが強みです。
4. デジタル時代に最適化
小さな文字サイズでも潰れず、画面上でくっきり見えるように設計されています。スマホの小さな画面からパソコンまで、デジタル環境でも読みやすいよう、細部まで工夫されているんです。
5. 読みやすさと見た目のインパクト
特にヒラギノ角ゴシック体は、文字の飾りをなくすことで文字の内側の空間を広く取り、読みやすさを確保しながらも視覚的なインパクトを与えています。
これらの工夫があるからこそ、ヒラギノフォントは雑誌やウェブサイト、広告、そしてスマホのアプリなど、様々な場所で重宝されているんですね!
松本文字塾
松本文字塾は、書体設計士の鳥海修が塾長を務めるプライベート塾で、長野県松本市で開催されています。
元々、東京で開催していた同塾ですが、2022年から松本市で再スタートし、現在は第四期に突入しているようです。
日本語フォントの制作は、漢字・ひらがな・アルファベットなど多様な文字を含むため、たった1年で完成させるのはとても大変な作業となるため、松本文字塾では、1年間かけて受講者が自分だけの「仮名」(平仮名と片仮名)をデザインし、それをフォントとして形にすることに焦点を絞って指導しているようです。
私自身、自分でフォントを作るという発想になったことが無かったのですが、自分だけのフォントをデザインできる!と聞くと、ちょっと興味沸いてきませんか?!すでに、4期生の募集は終わっているようですが、興味あれば次回にでも応募してみてはいかがでしょうか
TBS「情熱大陸」に、鳥海修さんが出演
3月23日(日) 23:25~ 放送のTBS「情熱大陸」に鳥海修さんが出演します!

まとめ
私たちが日々何気なく目にし、使っている文字たち。その形や太さ、空間のデザインには、鳥海修さんをはじめとする書体設計士たちの情熱とこだわりが詰まっています。
スマホを操作するとき、パソコンで作業するとき、本や雑誌をめくるとき、ちょっと立ち止まって、その文字を形作った職人の手仕事や美意識に想いを巡らせてみるのも良いかもしれませんね。
文字デザインは日常に溶け込み、私たちの文化や生活を支え、豊かにしてくれる、まさに「水であり、米」のような存在ですね!
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